狩猟とカスタムナイフ

狩猟にはナイフが必要です。
銃があるからナイフは必要ないんじゃないの?と思う方がいるかもしれません。
ナイフは動物を絞めるとき、毛皮を取るとき、肉をとるときに使われます。
また、解体のときに使うロープの切断や、その他現場でのあらゆる事にナイフが使われます。



狩猟メンバーからのオーダーの品です。
彼らが取った鹿の角をハンドルに使ったセミスキナー。
鹿・熊等を解体するときに抜群の威力を発揮します。

私はナイフを作っている関係上、狩猟メンバーと懇意にさせていただいています。
実際の狩猟に同行し,制作したナイフを使い,実際の解体などでのナイフの使用感を試します。
そしてハンターが皮をはいだり解体作業をする際に使いやすい機能的なデザインを考え,形を変えてゆきます。
狩猟に関わる人たちは、ナイフなしでは話になりません。一人で何本ものナイフを所有しています。
私の知っている狩猟メンバーはカスタムナイフを良く知っていて、殆どのメンバーが所有しています。

狩猟に同行する以前は、きっと大きいナイフが必要なんだろうなぁ,と思っていました。
しかし、現場は違いました。
解体の基本は、毛皮を剥いで肉を取り出す作業です。
この作業を狩猟のメンバーは1本のナイフで行っていました。
ドロップポイントのブレードか、セミスキナーです。メンバーはセミスキナーが使いやすいと言います。
それも長さは3インチあれば十分、と言い切ります。

他の狩猟メンバーはどうでしょうか?
聞いた話によれば、昔からの慣わしか、日本古来の鍛冶屋で作ったような刃物を手にしている人が多いようです。
日本古来の刃物も優れていて、きちんと研いでおけばとてもよく切れるのです。
動物を解体するとなれば、肉のような柔らかいところだけでなく、とても硬い骨もあるのです。
その骨に刃が当たったりして刃を欠けさせてしまう事もあるようです。


狩猟に適したナイフはどんなものでしょう。
皮を剥ぐスキナー、骨から肉を取り除く細かい作業のシャープな先端。使う人によって、形は無限に出てくるでしょう。
しかし、包丁のような真っすぐな刃は、すぐに肉に傷をつけてしまいがちです。緩やかなカーブで形成された刃がいいでしょう。
鋼材は、刃持ちのよい、よく切れる素材がいいでしょう。厚さは適当な厚さが必要です。
ハンドルは、動物の脂肪が付いても滑りにくいスタッグなんかがいいでしょう。
刃の表面はミラー仕上げがいいかと思います。
長時間の使用には、ハンドルは丸みを帯びている方が手が疲れません。


ブレード
S90V 鋼を使います。
これは、とても加工性が悪いです。グレードの低いS30Vは加工性が少しはいいのですが、それでもとても硬くて、作業は難航します。
焼きが入ると、ペーパーの刃が立たなくなってしまいます。
CV鋼を加工したことのある人なら分かると思いますが、まさにその感じです。
相当の苦労をして仕上げます。
穴を開けるのにも、やはりかなり苦労します。
しかし,硬いと言っても刃こぼれをしません。焼き上がりの硬度はHRC57くらいです。
耐磨耗性がとても優れていて、カミソリのような切れ味を体感できます。「使っていて音が違う」と狩猟メンバーは絶賛しています。


■ハンドル
毛皮を剥いでいて気になるのは、脂肪が手やハンドルに取り付いて滑る事です。
マイカルタのような光るように仕上げた面に付いた脂肪は、どう掴んでも滑ってしまいます。
手が滑ると言うことは、押し込んだときブレードの方まで手が行ってしまう事です。
大変危なく、解体に集中できなくなります。
ハンドルは凹凸のある、鹿の角(スタッグ)がベストでしょう。
最近はスタッグが入手困難なので牛の骨に凹凸の加工を施し、滑り難くしているハンドルも見受けられます。


■価格について,既製品について
私が狩猟用ナイフに使っている鋼材は、店頭に並ばないものです。特別に注文して手に入れます。
加工手順も普通のナイフと違い、また、鋼材が非常に硬いため加工にも大変な手間が必要です。
現在スタッグは入手が非常に困難で高価です。
すべてが特別なため、狩猟用のナイフは通常のナイフに比べて高くなります。が,他ではなかなか手に入れられない逸品をお渡しできると自負しています。
狩猟用に売っているナイフで、それなりにいい鋼材を使っているのもあります。やはり、それは値段が高いはずです。
値段で妥協したナイフは、値段分しか切れないような気がします。

既製ナイフの弱点
・ハンドルが薄い=手が疲れやすい  ハンドルは丸い方が手が疲れにくい
・バンドルが角ばっている=使っていて、手に食い込んでいくる。 丸みがなければいけません。
・ブレードの峰の角が尖っている。=素手で作業していると、思わぬ角で怪我をすることがある。 角にも丸みをつける。
・ブレードとヒルトとの間に隙間がある=錆びの原因となる。
・重量バランスが悪い=使っていて、手首が疲れる。  バランスに配慮しなければならない。
・ハンドルが滑りやすい=手が滑って怪我をすることがある。 鹿角などであれば問題ない。
・刃持ちが悪い=鋼材の良否
・シースが柔らかい=薄い革の使用。曲がるシースは危険。
・シースからナイフが抜け落ちる=ナイフに合っていないシースは危険。





以下はハンターの鹿狩りに同行し,解体をした様子です。


↓肉や皮を剥いでいる生々しい画像です。ご了承の上ご覧下さい。↓

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獲物は鹿です。体重60キロ位の雄鹿です。
食用の肉を取る時は、内臓に傷をつけないように撃ちます。
内臓を撃つと、腸内の雑菌が肉に移り、また、血が筋肉組織に残り、まずくなるからです。
私が見たときは、顎を狙って撃ち、失神している所に近寄り、ナイフで喉もとの大動脈を切断しました。
心臓の動きで、自ら血抜きをするということです。さらに血を抜くため、写真のように両足を木の枝に結びつけ、逆さまにします。


   
腹に上から下に向かってまっすぐに切込みを入れます。
セミスキナーを裏返しに持ち、皮と筋肉組織との間の薄い膜の間を滑らすように切り進みます。
両足に切り込みを伸ばし、足首のところから下に向かって体から皮を脱がすように剥ぎます。


   
肉を取るのは背ロースと、手足のモモ肉です。写真のロースは取った後です。
写真は後ろ足を間接から外しているところです。
股関節の仕組みが分かっていないと、何度もナイフの刃を骨にガリガリ当ててしまいます。
写真で分かるように、内蔵は一切出てきません。とても綺麗で、匂いも殆どありません。

毛皮を剥ぐときに使った軍手は、肉を取り出すときは新品に取り替えます。皮についていたゴミや、雑菌を寄せ付けない配慮からです。
取り出した肉は、すぐにスーパーの袋に入れて、ゴミなどが付かないようにします。
また、現場では水は使いません。水は雑菌の宝庫です。血の汚れなどは、綺麗なタオルで拭きます。

   
肉はすぐには食べません。骨の付いた状態で3日から1週間くらい冷蔵庫で保管します。
肉をタオルで巻き、スーパーの袋に入れ、口は空けておきます。毎日血で汚れたタオルを変えて、綺麗なタオルに交換します。
食べるときに、肉をまた分解します。筋肉は袋状になっていて、その袋ごとに分けていきます。
この作業も、セミスキナーが最適です。緩やかなカーブが、袋と袋を確実に分けてくれます。
袋の周りを取り囲んでいる膜(銀筋)をすべてナイフで取り除きます。表面を薄くスライスしながら作業します。

鹿肉は、刺身、あぶり焼き、バーベキュー、何でもおいしく食べられます。
猟師によって撃つときから適切に処理、管理された肉は、安全で安心して食べることができるのです。




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